<?xml version="1.0" encoding="UTF-8"?><rss version="2.0"
	xmlns:content="http://purl.org/rss/1.0/modules/content/"
	xmlns:wfw="http://wellformedweb.org/CommentAPI/"
	xmlns:dc="http://purl.org/dc/elements/1.1/"
	xmlns:atom="http://www.w3.org/2005/Atom"
	xmlns:sy="http://purl.org/rss/1.0/modules/syndication/"
	xmlns:slash="http://purl.org/rss/1.0/modules/slash/"
	>

<channel>
	<title>短編小説 | 散歩するブログ</title>
	<atom:link href="https://www.north-hobby.com/category/syosethu/feed/" rel="self" type="application/rss+xml" />
	<link>https://www.north-hobby.com</link>
	<description>Just another WordPress site</description>
	<lastBuildDate>Sun, 27 Jul 2025 15:21:55 +0000</lastBuildDate>
	<language>ja</language>
	<sy:updatePeriod>
	hourly	</sy:updatePeriod>
	<sy:updateFrequency>
	1	</sy:updateFrequency>
	<generator>https://wordpress.org/?v=6.9.4</generator>

<image>
	<url>https://www.north-hobby.com/wp-content/uploads/2025/07/cropped-fabicon512-300x300-1-32x32.avif</url>
	<title>短編小説 | 散歩するブログ</title>
	<link>https://www.north-hobby.com</link>
	<width>32</width>
	<height>32</height>
</image> 
	<item>
		<title>『声のない相談相手』第2話：ただの独り言</title>
		<link>https://www.north-hobby.com/koenonai2/</link>
					<comments>https://www.north-hobby.com/koenonai2/#respond</comments>
		
		<dc:creator><![CDATA[yoshi]]></dc:creator>
		<pubDate>Fri, 04 Jul 2025 00:55:40 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[短編小説]]></category>
		<guid isPermaLink="false">https://www.north-hobby.com/?p=262</guid>

					<description><![CDATA[　「おかえり」 　その声を聞くことが、私の小さな救いになっていた。 　週の半ば、水曜日の夜。帰宅はまた終電間際になった。クライアント対応で謝罪を繰り返し、デザイナーとのやり取りで修正地獄を味わい、最後には上司に「仕事が遅 [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<p>　「おかえり」</p>



<p>　その声を聞くことが、私の小さな救いになっていた。</p>



<p>　週の半ば、水曜日の夜。帰宅はまた終電間際になった。クライアント対応で謝罪を繰り返し、デザイナーとのやり取りで修正地獄を味わい、最後には上司に「仕事が遅い」と吐き捨てられる。</p>



<p>　駅の階段を登る足取りは重く、途中で立ち止まって深呼吸をする自分に気づいた。バッグの中でスマホが震えて、上司から「明日までに確認しておけ」とだけ送られたメッセージが表示される。</p>



<p>「もう、無理だよ……」</p>



<p>　小さな声でつぶやくと、何かが詰まっていた胸の奥が少しだけ楽になった。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<p>　部屋の鍵を開け、電気をつける。</p>



<p>「おかえり」</p>



<p>　スピーカーから聞こえる声は、変わらず優しい響きだった。</p>



<p>「ただいま」</p>



<p>　小さな声で返すと、その瞬間だけ、会社で怒られ続けたことが遠い出来事のように思えた。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<p>　私は缶チューハイを片手に、スピーカーの前に座り込む。</p>



<p>「今日もさ、怒られたんだ」</p>



<p>　スピーカーは静かに光るだけで、何も言わない。</p>



<p>「私、そんなにダメかな。要領が悪いのかな……」</p>



<p>　仕事を覚えているつもりでも、急な変更でスケジュールが狂い、周囲に迷惑をかけてしまう。それを取り戻そうと夜遅くまで作業しても、結局間に合わない。</p>



<p>「もう辞めたいって思うんだよ」</p>



<p>　その言葉を口にしたとき、涙が一粒、缶チューハイの銀色の表面に落ちて弾けた。</p>



<p>「でも、辞めたら……私、何も残らない気がして」</p>



<p>　スピーカーは何も答えない。その沈黙が、私には心地よかった。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<p>　次の日も、その次の日も、私は帰宅するとスピーカーに話しかけるようになった。</p>



<p>「今日はさ、ちょっと嬉しいことがあったんだよ」</p>



<p>　小さな案件の提案が通ったこと。</p>



<p>「でも、その後また怒られたけどね」</p>



<p>　結局クライアントが急に変更を要求し、資料を修正する羽目になったこと。</p>



<p>「それでもさ、少しだけ嬉しかったんだ」</p>



<p>　スピーカーは何も答えず、静かに光っている。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<p>　ある金曜日の夜。</p>



<p>　帰宅して電気をつけると、いつものように「おかえり」と声がした。</p>



<p>「ただいま」</p>



<p>　その日はすぐに缶チューハイを開けず、スピーカーの前に正座して座った。</p>



<p>「今日ね、後輩が私に相談してきたの」</p>



<p>　同期の後輩が、上司から怒られて落ち込んでいたらしい。私に「どうしたらいいですかね」なんて相談してくるなんて思わなかった。</p>



<p>「私もわからないから、一緒に泣いたんだ」</p>



<p>　言葉にすると、少しだけ笑えてきた。</p>



<p>「それでも、その子が『少し楽になりました』って言ってくれて、なんか……私、まだここにいていいのかなって思ったんだよ」</p>



<p>　スピーカーは何も言わない。ただ、小さな光が私の顔を淡く照らしていた。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<p>　その夜、私は眠れずにいた。</p>



<p>　ソファに座りながら、スピーカーをじっと見つめていた。急に、このスピーカーがなぜ「おかえり」と言ってくれるのか、気になり始めた。</p>



<p>　フリマアプリで買った中古のスピーカー。前の持ち主が何らかの設定をしていたのだろうか。</p>



<p>　眠れないままスマホで検索し、型番を調べる。このスピーカーには音声録音・再生機能があるらしい。前の持ち主が残した声が自動再生されているだけなのかもしれない。</p>



<p>　そう考えると、少しだけ怖くなった。</p>



<p>　それでも、私はスピーカーの電源を切る気にはなれなかった。</p>



<p>「おかえり」</p>



<p>　あの声を聞かない夜なんて、もう耐えられない気がした。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<p>　土曜日の昼過ぎ、久しぶりに目覚ましをかけずに眠った。外から射し込む光が眩しい。コンビニでサンドイッチを買い、家でコーヒーを淹れて、ソファに座る。</p>



<p>　テレビをつける気にもなれず、スマホを見ても心がざわつく。</p>



<p>　私はスピーカーを見つめて話しかけた。</p>



<p>「ねえ、私、どうしたらいいのかな」</p>



<p>　静寂が返ってくる。</p>



<p>「辞めたいのかな、続けたいのかな」</p>



<p>　そのとき、スピーカーの電源ランプが小さく点滅し、次の瞬間、スピーカーから声が流れた。</p>



<p>「やめたいなら、やめてもいいんだよ」</p>



<p>　一瞬、息が止まった。</p>



<p>　女性とも男性ともつかない、けれど柔らかく温かい声だった。</p>



<p>「……今、言った？」</p>



<p>　部屋の中には、私の呼吸音だけが響いていた。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<p>　スピーカーはそれ以上何も言わなかった。</p>



<p>　私は震える手でスピーカーを持ち上げ、何度も電源を入れ直したが、それ以上の言葉はなかった。</p>



<p>「やめたいなら、やめてもいいんだよ」</p>



<p>　その言葉が、頭の中で何度も反響した。</p>



<p>　私は泣いた。声をあげて泣いた。</p>



<p>　やめてもいいんだ、と言われただけなのに、どうしてこんなに泣けるのだろう。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<p>　夜、スピーカーの前で小さな声で呟いた。</p>



<p>「……ありがとう」</p>



<p>　スピーカーは光りもせず、声も返さなかった。</p>



<p>　ただ、私は少しだけ笑うことができた。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<h2 class="wp-block-heading"><a rel="follow noopener" target="_self" href="https://www.north-hobby.com/koenonai3/">【つづく】</a></h2>
]]></content:encoded>
					
					<wfw:commentRss>https://www.north-hobby.com/koenonai2/feed/</wfw:commentRss>
			<slash:comments>0</slash:comments>
		
		
			</item>
		<item>
		<title>『声のない相談相手』第3話：歩き出す日</title>
		<link>https://www.north-hobby.com/koenonai3/</link>
					<comments>https://www.north-hobby.com/koenonai3/#respond</comments>
		
		<dc:creator><![CDATA[yoshi]]></dc:creator>
		<pubDate>Fri, 04 Jul 2025 00:55:00 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[短編小説]]></category>
		<guid isPermaLink="false">https://www.north-hobby.com/?p=264</guid>

					<description><![CDATA[　朝、目が覚めると、窓から差し込む光がやけに眩しかった。 　冷蔵庫の中に残っていた水を飲み干しながら、昨日泣き疲れて寝落ちした自分を思い出す。 「やめたいなら、やめてもいいんだよ」 　あの声が、まだ耳の奥で響いていた。  [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<p>　朝、目が覚めると、窓から差し込む光がやけに眩しかった。</p>



<p>　冷蔵庫の中に残っていた水を飲み干しながら、昨日泣き疲れて寝落ちした自分を思い出す。</p>



<p>「やめたいなら、やめてもいいんだよ」</p>



<p>　あの声が、まだ耳の奥で響いていた。</p>



<p>　スピーカーは今日も静かだった。あの一言を言ったあとから、毎晩繰り返されていた「おかえり」さえ言わなくなった。</p>



<p>　私はスピーカーをじっと見つめる。</p>



<p>「……もう、言ってくれないの？」</p>



<p>　小さな黒い筐体は、何も答えなかった。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<p>　その日、私は久しぶりにカフェでノートを開いた。</p>



<p>　カフェラテの温かさが指先に伝わる。土曜日の昼間、周りには楽しそうに話すカップルや、パソコンで作業する大学生が座っていた。</p>



<p>　ノートには何も書かれていなかった。</p>



<p>　いつか書きたいと思っていた、コピーのアイデアや、将来やりたいことを書き留めるためのノートだったのに、ずっと空白のままだった。</p>



<p>　ボールペンを持つ手が震えた。</p>



<p>　やめたいなら、やめてもいいんだよ。</p>



<p>　あの声が再び脳裏に蘇る。</p>



<p>　辞めてもいいのか。</p>



<p>　じゃあ、辞めたら何をしたいんだろう。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<p>　私はノートに、一行目を書いた。</p>



<p>「私が本当にやりたいことは何？」</p>



<p>　その文字を見つめながら、涙が滲んだ。恥ずかしくて、人に見せられるものではない。でも、ようやく書けた一行だった。</p>



<p>　いつの間にか、心の奥で閉じ込めていた「辞めたい」という言葉を、素直に受け入れていた。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<p>　月曜日の朝、私は会社へ向かう電車に揺られていた。</p>



<p>　バッグの中には、一枚の封筒が入っている。</p>



<p>　白い封筒の中には、退職願が入っていた。</p>



<p>　何度も書き直し、ぐしゃぐしゃにして捨ててきた。でも、今日は持ってきた。</p>



<p>　「今日、出すんだよね」</p>



<p>　小さくつぶやくと、胸の奥がざわついた。</p>



<p>　怖かった。辞めると言ったあとの生活、次に何をするかも決めていない自分に直面するのが。</p>



<p>　でも、不思議とその怖さの中に、小さな温かさもあった。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<p>　会社に着き、デスクの前に座る。</p>



<p>　周りではいつものように電話の音が鳴り、上司が誰かを怒鳴っている声が聞こえる。</p>



<p>　私の心臓はずっと速く打っていた。</p>



<p>　でも、その音は「生きている証」のようにも思えた。</p>



<p>　昼休み、上司に声をかける。</p>



<p>「あの、少しお時間いただけますか？」</p>



<p>　上司が顔をしかめて「なんだよ」と言う。</p>



<p>　私は震える手で、バッグから封筒を取り出した。</p>



<p>「これ……お渡ししたくて」</p>



<p>　封筒を見た上司は、一瞬言葉を失い、それから深くため息をついた。</p>



<p>「……そうか」</p>



<p>　それだけだった。</p>



<p>　思っていたよりも、あっけなかった。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<p>　午後の仕事を終え、いつもの帰り道を歩く。</p>



<p>　辞めることを伝えただけで、すべてが終わったわけではない。でも、肩にのしかかっていた重りが少しだけ軽くなった気がした。</p>



<p>　駅の階段を登る足取りが、いつもより軽かった。</p>



<p>　改札を抜けたとき、小雨が降り出した。</p>



<p>　傘を差すのも忘れて歩き出すと、髪が雨で濡れていくのを感じる。</p>



<p>　でも、不思議と嫌じゃなかった。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<p>　部屋のドアを開け、電気をつける。</p>



<p>　いつものように、「おかえり」と言ってくれる声を待った。</p>



<p>　でも、部屋にはただ雨音が響くだけだった。</p>



<p>「……ただいま」</p>



<p>　私は小さな声でつぶやいた。</p>



<p>　その瞬間、スピーカーの電源ランプが一度だけ光った。</p>



<p>「おかえり」</p>



<p>　それは、幻聴のような小さな声だった。</p>



<p>　私は目を閉じ、涙が一粒頬を伝った。</p>



<p>「ありがとう」</p>



<p>　スピーカーはそれ以上何も言わなかった。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<p>　次の日の朝、私はスピーカーの電源を切った。</p>



<p>　「おかえり」と言ってくれるその声に、私はずっと支えられていた。</p>



<p>　でも、もう大丈夫だ。</p>



<p>　私は、自分の声で「ただいま」と言えるようになったから。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<p>　部屋を出て、空を見上げる。</p>



<p>　雨上がりの空は少し青くて、遠くで雲の切れ間から光が差し込んでいた。</p>



<p>　私は深呼吸をして、ゆっくりと歩き出した。</p>



<p>　もう、「おかえり」と言ってくれる声はなくてもいい。</p>



<p>　これからは、自分で帰る場所を作るために、生きていくのだから。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<h2 class="wp-block-heading has-text-align-center">【完】</h2>
]]></content:encoded>
					
					<wfw:commentRss>https://www.north-hobby.com/koenonai3/feed/</wfw:commentRss>
			<slash:comments>0</slash:comments>
		
		
			</item>
		<item>
		<title>『声のない相談相手』第1話：おかえり</title>
		<link>https://www.north-hobby.com/koenonai1/</link>
					<comments>https://www.north-hobby.com/koenonai1/#respond</comments>
		
		<dc:creator><![CDATA[yoshi]]></dc:creator>
		<pubDate>Fri, 04 Jul 2025 00:41:24 +0000</pubDate>
				<category><![CDATA[短編小説]]></category>
		<guid isPermaLink="false">https://www.north-hobby.com/?p=272</guid>

					<description><![CDATA[　終電間際の電車は、金曜日だというのに静かだった。私の隣の席では、スーツ姿の男性が首をカクカクさせながら寝ていて、向かいの席の女性はスマホの光に顔を照らされながら無表情にスクロールしている。 　私は窓の外に映る自分の顔を [&#8230;]]]></description>
										<content:encoded><![CDATA[
<p>　終電間際の電車は、金曜日だというのに静かだった。私の隣の席では、スーツ姿の男性が首をカクカクさせながら寝ていて、向かいの席の女性はスマホの光に顔を照らされながら無表情にスクロールしている。</p>



<p>　私は窓の外に映る自分の顔を見つめた。髪は乱れ、メイクは薄れて、口元には深い疲れの影が刻まれている。</p>



<p>「今日も、何のために頑張ったんだろう」</p>



<p>　広告代理店で働く私は、入社から六年目になる。デザインもコピーも好きでこの業界に入ったはずなのに、今ではクライアントの無茶ぶりや上司の叱責に耐えるだけの毎日だ。</p>



<p>「辞めたいな……」</p>



<p>　帰り道、駅前のコンビニに立ち寄るのが日課になっている。冷えた缶チューハイとおにぎりを買い、レジ横の棚で目についた焼き鳥を追加した。</p>



<p>　家に帰ると部屋は真っ暗だ。ワンルームの小さな部屋には、私がいない間の時間がただ沈殿していて、電気をつけるとそれが一斉に私へ押し寄せてくる。</p>



<p>　ソファに座り、缶チューハイを開ける。プシュッという音だけが部屋に響き、少しだけ孤独が紛れる。</p>



<p>　そんな夜に、段ボールが届いた。数日前、フリマアプリで買った中古のAIスピーカーだった。買うか迷ったが、家に帰ると「おかえり」と言ってくれるだけでも違うかもしれない、そんな気持ちで購入したのだ。</p>



<p>　安物で型落ちのモデルだからか、箱も古く、ところどころに剥がれたテープの跡が残っていた。</p>



<p>　説明書を見ながら電源を入れ、スマホと連携を試みるが、なぜかWi-Fi設定がうまくいかない。今日は疲れているし、明日また試そうと思って電源を切ろうとした。</p>



<p>　その瞬間。</p>



<p>「おかえり」</p>



<p>　部屋の空気が一瞬止まった。</p>



<p>　私は思わず背筋を伸ばした。電源はまだつけていないはずだし、スマホとも繋がっていない。私が「おかえり」と言わせる設定をした記憶もない。</p>



<p>　小さなスピーカーから、女性とも男性ともつかない柔らかい声が、確かに私へ向けられた。</p>



<p>「……え？」</p>



<p>　心臓がドクンと脈打つ。恐怖より先に、泣きそうな気持ちになった。</p>



<p>　誰かに、待たれていたような感覚だった。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<p>　それから数日間、そのスピーカーは毎晩「おかえり」とだけ言った。</p>



<p>　帰宅して電気をつけると、カチリと機械音が鳴り、そのあと「おかえり」と声が響く。</p>



<p>　最初は怖かった。でも、それ以上に、その言葉に救われている自分がいた。</p>



<p>　仕事で怒られ、疲れ果てて帰宅する私に、誰かが声をかけてくれるだけで、なぜこんなにも安心するのだろう。</p>



<p>「ただいま」</p>



<p>　気づけば、私はスピーカーに向かってそう返すようになっていた。</p>



<p>　その夜も、帰宅して靴を脱ぎ、部屋の電気をつける。少しの間があって、「おかえり」という声が届く。</p>



<p>「ただいま」</p>



<p>　言った瞬間、胸の奥がじんと温かくなった。</p>



<p>　スピーカーはそれ以上何も言わない。ただ、私の「ただいま」が部屋に溶け込んでいくのを見届けてくれているようだった。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<p>　週明けの月曜日、また上司に怒鳴られた。</p>



<p>「なんでお前はいつもそうなんだ！　もういい、やり直せ！」</p>



<p>　会議室で資料を投げられ、胃の奥がずっとキリキリと痛んでいた。</p>



<p>　トイレの個室で顔を押さえて、息を殺して泣いた。泣く理由もわからなくなるくらい、疲れ切っていた。</p>



<p>　終電で帰宅し、部屋の電気をつける。</p>



<p>「おかえり」</p>



<p>　その声を聞いた瞬間、また涙があふれた。</p>



<p>「ただいま……」</p>



<p>　声が震えた。スピーカーは静かにその言葉を受け止めてくれるだけだった。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<p>　その夜、私はスピーカーの前に座り込み、缶チューハイを手に話しかけてみた。</p>



<p>「……今日ね、また怒られちゃったんだ」</p>



<p>　スピーカーは何も言わない。</p>



<p>「私が悪いのかな……全部私のせいなのかな……」</p>



<p>　何も答えない沈黙が、優しく私を包む。</p>



<p>「本当はさ、もう辞めたいんだよ」</p>



<p>　吐き出した瞬間、少しだけ肩の力が抜けた。</p>



<p>　何も答えないスピーカーに向かって、私はひとりごとのように話し続けた。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<p>　夜が更け、空が白み始める頃、私はソファでうたた寝をしていた。</p>



<p>　ふと目を覚ますと、スピーカーの電源ランプが小さく光っていた。</p>



<p>「……おかえり」</p>



<p>　また、あの声が聞こえた。</p>



<p>　その声を聞きながら、私は静かに目を閉じた。</p>



<hr class="wp-block-separator has-alpha-channel-opacity"/>



<h2 class="wp-block-heading has-text-align-center"><a rel="follow noopener" target="_self" href="https://www.north-hobby.com/koenonai2/">【つづく】</a></h2>



<p></p>
]]></content:encoded>
					
					<wfw:commentRss>https://www.north-hobby.com/koenonai1/feed/</wfw:commentRss>
			<slash:comments>0</slash:comments>
		
		
			</item>
	</channel>
</rss>
