~“手取り”が増えない日本、その本当の理由~
■ はじめに
最近、「実質可処分所得が減っている」「手取りが上がらない」といったニュースをよく耳にします。
でも──「可処分所得」ってそもそも何?どんな意味で“減っている”の?
ニュースで当たり前のように出てくるこの言葉、意外と正確に理解している人は少ないかもしれません。
この記事では、「可処分所得とは何か?」を、家計・社会・政治の3つの視点からわかりやすく解説します。
自分の生活感覚に置き換えて考えると、“お金の流れ”がぐっと見えてくるはずです。
■ 可処分所得=「手取り」のこと
まず結論から言うと、可処分所得とは 「税金や社会保険料を差し引いたあとの、自由に使えるお金」 のことです。
英語では “Disposable Income”。
つまり「処分(disposal)できる所得」、すなわち自由に使える所得という意味です。
たとえば、月収40万円の会社員Aさんの場合──
| 項目 | 金額 | 
|---|---|
| 総支給額(給与) | 400,000円 | 
| 所得税・住民税 | ▲30,000円 | 
| 年金・健康保険・雇用保険など | ▲50,000円 | 
| 可処分所得(手取り) | ✅ 320,000円 | 
この 32万円 が、Aさんの「可処分所得」。
家賃、食費、光熱費、趣味、貯金などをまかなう、実際の“生活資金”です。
■ 収入の流れで見る「可処分所得」
給料(総所得)
   ↓
− 税金(所得税・住民税)
   ↓
− 社会保険料(年金・医療・介護など)
━━━━━━━━━━━━━━
= 可処分所得(=手取り)
この“残った部分”がどれだけ増えるか減るかが、暮らしの実感を左右します。
名目の給料が上がっても、税や保険料が増えれば手取りは増えません。
そのため、可処分所得こそ「生活の豊かさ」を測る実感指標なのです。
■ 家計で見ると「使えるお金」と「残せるお金」
可処分所得は、いわば家計のスタート地点。
ここから家賃や食費などの支出を引いた残りが「貯蓄可能所得(貯金に回せるお金)」になります。
可処分所得
   ↓ − 生活費(住居費・食費・光熱費など)
━━━━━━━━━━━━━━
= 貯蓄可能所得
つまり、可処分所得が増えれば「余裕のある生活」につながり、
減れば「節約しないと回らない」状況になります。
給与アップや減税のニュースが気になるのは、まさに“手取り=可処分所得”に直結するからです。
■ なぜ今、「可処分所得」が話題なのか
近年、日本では“名目賃金が上がっているのに生活が苦しい”という声が増えています。
その理由こそ、「可処分所得の伸び悩み」です。
🔹 実際のデータ
下のグラフ(※参考用)を見ると、日本の可処分所得は過去20年以上ほぼ横ばい。
物価や社会保険料が上がる一方で、手取りの伸びは止まっています。

📊 《図1:日本の実質可処分所得の推移(1997~2024)》
ポイント:
- 1997年をピークに、2020年代でも実質ベースでは減少。
- 給与総額は増えても、税・社会保険料の引き上げが手取りを圧迫。
- インフレで実質購買力も低下。
要するに、「見かけの給料は増えても、自由に使えるお金は減っている」 のです。
■ 可処分所得を減らしている3つの要因
① 税負担の増加
所得税・住民税の累進構造や控除縮小により、総支給額が同じでも手取りは減りがちです。
特に中間層では「税率は変わらないのに控除が減っている」ケースも多く見られます。
② 社会保険料の上昇
少子高齢化に伴い、年金・医療・介護などの保険料が年々上がっています。
会社員なら給与の約15%前後が天引きされ、ここ20年で2〜3割増。
給与アップをほぼ相殺してしまうほどです。
③ 物価上昇(インフレ)
名目上の可処分所得が変わらなくても、物価が上がれば実質的な購買力は下がります。
「同じ手取りでも買えるものが減る」──これも“可処分所得の減少”と同じ意味を持ちます。
■ 世界と比べると?
OECD(経済協力開発機構)の比較では、
日本の平均可処分所得は 加盟38か国中 20位前後。
名目では中位でも、物価や社会保障負担を加味した「実質購買力」ではさらに下がります。
| 国名 | 平均可処分所得(購買力平価ベース) | 備考 | 
|---|---|---|
| 🇺🇸 アメリカ | 約7万ドル | 税・社会保障負担が低め | 
| 🇩🇪 ドイツ | 約5.2万ドル | 高税率だが福祉充実 | 
| 🇫🇷 フランス | 約4.8万ドル | 社会保険料が高い | 
| 🇯🇵 日本 | 約3.9万ドル | 税率低いが可処分伸び悩み | 
| 🇰🇷 韓国 | 約3.7万ドル | 物価上昇で圧迫傾向 | 
👉 つまり日本は、「税率の低さ」のわりに「手取りの実感」が乏しい国になっています。
税や社会保障が複雑に重なり、可処分所得が増えにくい構造だからです。
■ 可処分所得を増やすには?
「手取りを増やす」=「可処分所得を増やす」ための方法は、個人レベルと政策レベルの両方に分けて考えられます。
🔹 個人ができる工夫
- 節税・控除の活用:ふるさと納税・iDeCo・NISAで所得税・住民税を減らす。
- 保険料見直し:不要な民間保険を整理し、手取りに近い支出構造に。
- 副収入を得る:副業やスキルアップで“給与外の可処分”を確保。
🔹 政府・政策の方向性
- 減税・社会保険料軽減策
 → 2025年以降、与野党で「給付付き税額控除」「所得税の定額減税」「社会保険料の上限見直し」などの議論が進行中。
- 物価高対策
 → 消費税の軽減、エネルギー補助、低所得者向け支援など。
- 実質賃金の底上げ
 → 労働市場改革・最低賃金引き上げなどで名目賃金と手取りを同時に増やす試み。
■ 「可処分所得が増える社会」とは
可処分所得が増える社会とは、単に給料が上がる社会ではありません。
それは、
- 税・保険料が適正で、
- 物価が安定し、
- 安心して支出や投資ができる社会。
言い換えれば、**「努力が報われる構造」**のことです。
手取りが増えれば、消費が活発になり、企業収益も上がり、さらに賃金が上がる──
そんな好循環を生む“起点”こそ、可処分所得なのです。
■ まとめ
| 観点 | 内容 | 
|---|---|
| 定義 | 税金・社会保険料を引いたあとの「手取り」 | 
| 重要性 | 実際に使えるお金=生活実感を左右 | 
| 現状 | 税・社会保険料・物価上昇で伸び悩み | 
| 国際比較 | 日本は先進国中で中位だが購買力は低下傾向 | 
| 政策課題 | 減税・社会保険料改革・賃金上昇の連動が必要 | 
■ おわりに
「給料は上がったのに、生活は楽にならない」。
その違和感の正体が“可処分所得”です。
数字よりも、手元に残るお金が増えること。
それが、私たちの暮らしを本当に豊かにする鍵。
そして、政治が最も真剣に向き合うべき指標なのです。

 
  

