はじめに
プロ野球やメジャーリーグを見ていると、試合終了後のスコアボードに「勝利投手」「敗戦投手」「セーブ」といった記録が並びます。特に「勝ち投手」は投手の評価や年俸に直結する重要な記録ですが、その決め方は必ずしも単純ではありません。
「点を取った直後に投げていた投手が勝ち投手になる」――多くのファンはそう思っているでしょう。しかし実際には、公式記録員の裁量が入るため、「勝ち投手の剥奪」という珍しいケースも存在します。今回は、この奥深いルールと実際の事例をコラム風に紹介します。
勝ち投手の基本ルール
先発投手の条件
公認野球規則9.17(b)によれば、先発投手が勝ち投手になるには 5回以上を投げ切る必要があります(9イニング制の場合)。つまり、4回で降板した時点で味方が大量リードしていても、勝ち星はつきません。
リリーフ投手の扱い
先発が勝ち投手資格を満たさなかった場合、ルールはこう定めています。
「リリーフ投手のうち、最も効果的に投げた投手を勝利投手とする」
つまり、単純に「勝ち越し直後に投げていた投手」ではなく、内容によって勝ち星が付け替えられることがあるのです。
「効果的」の意味とは?
ここでカギとなるのが「効果的」という言葉です。
- 安定感:自分でランナーを出さず淡々と抑える
- 試合の流れ:ピンチを切り抜け、チームに勢いを与える
- 内容評価:四球連発や被安打でピンチを作った投手は減点対象
といった要素が総合的に判断されます。
そのため、自分でピンチを作って、結果的に0点で抑えただけでは「効果的」とはみなされないこともあるのです。
勝ち投手を「剥奪」された実例集
MLBの事例
ジョン・フランコ(2000年6月30日 メッツ vs ブレーブス)
同点の7回に登板したフランコは、四球と安打でピンチを招きつつも無失点。直後に味方が得点して勝ち越し、形式的にはフランコに勝ちが付くはずでした。
しかし公式記録員は「内容的に効果的でない」と判断し、勝利は後続投手に与えられたのです。
ショーン・ケリー(2014年8月23日 ヤンキース vs ホワイトソックス)
ケリーは7回に登板し、ヒットと四球でランナーを背負いながらも無失点で切り抜けました。裏にヤンキースが勝ち越したため、通常ならケリーに勝ち星。しかし、こちらも「安定感を欠く」とされ、次のリリーフに勝利が記録されました。
ダグ・ジョーンズ(1995年 ブルワーズ)
延長戦で登板し、先頭打者に連続四球を与えピンチを招いたジョーンズ。後続が火消しをしてチームがサヨナラ勝ちしましたが、勝ち投手は火消し役に変更されました。
NPBの事例
森原康平(楽天/2019年6月14日 vs 阪神)
先発が4回で降板し、森原がリリーフ。2回を無失点に抑えたものの、ランナーを出して不安定な投球内容でした。直後に楽天が勝ち越しましたが、公式記録員は「効果的でない」と判断し、次のリリーフ投手に勝ち星が与えられました。
巨人のリリーフ投手(2010年代交流戦の一例)
2番手投手が回の頭から登板し、安打と四球で満塁に。なんとか無失点で切り抜け、その裏に巨人が勝ち越しました。しかし「自分でピンチを作った」として、勝ち星は次の投手に移されました。
勝ち星が剥奪される典型パターン
- 短すぎる登板
1人だけ打者を抑えて交代 → 勝ちの価値が薄いと判断される。 - 自分でピンチを作った
四球や被安打で満塁にしてしまう → 内容不良とされる。 - 火消し役が決定的に貢献
他人のピンチを完全に抑える → 勝ち星が回る。
勝ち投手ルールの面白さ
こうした「勝ち星の剥奪」事例を見ると、単なる運ではなく記録員の人間的な評価が加わることが分かります。これは「セーブ」や「ホールド」とは異なる点で、野球という競技の奥深さを感じさせます。
また、この裁量があるからこそ「なぜこの投手に勝ち星?」という議論がファンの間で起こり、野球観戦の楽しみが広がる側面もあります。
おわりに
「勝ち投手」という記録は、数字としてシンプルに見えて、その裏には公式記録員の評価基準や試合の流れが深く関わっています。剥奪された事例は少ないものの、知っておくと試合観戦がより面白くなるでしょう。
次にテレビや球場で「勝ち投手」の発表を聞いたときは、単に得点のタイミングだけでなく、その投手がどれだけ「効果的」だったかに注目してみてください。きっと違った見方ができるはずです。


